天狗(てんぐ)の腰かけ松 2/5 ページ  
     

 その人は木曽から京都へ用事があって出かけてきたが、新村湊(みなと)からは船に乗らんで中山道を歩いて行こうと思ったところが、この災難や。
  坂をだらだらと下りようとしとったら、風のない静かな日やったが、急に頭の上の方から、どえらい大風が吹いてきて、体が吹き飛ばされそうになったもんで、こりゃ不思議なこっちゃ、と思ってちょいと頭をあげて見ると、おったわい大天狗が。赤い高い鼻をして、鳥の羽で作ったうちわを動かいとったんやな。そのたんびにひどい風で、吹き飛ばされてはかなわんと思って、走りかけたら、こんどは雷(かみなり)さまの落ちたような大きい声で笑うやないの。